1級電気工事施工管理技士の仕事内容・年収・将来性を解説

「今の電気工事士の仕事から、もっと専門性を高めてキャリアアップしたい」

そんな想いを抱えるあなたへ。この記事では、建設業界の中でも特に需要が高く、社会インフラを支える「電気工事施工管理技士(1級)」について、その仕事内容から年収、将来性まで実務的に解説します。

1級電気工事施工管理技士の価値を3分で理解

電気工事施工管理技士は、建設現場における電気工事全般を管理・監督する国家資格です。単なる電気工事士とは異なり、プロジェクト全体を動かす「司令塔」の役割を担います。

特に「1級」は、資格の最高峰であり、建設業法に基づき大規模な建設プロジェクトで必須とされる「監理技術者」として従事できる唯一の資格です。

電気工事施工管理技士とは?

電気工事施工管理技士は、国土交通省が管轄する国家資格です。建設現場において、電気工事の品質、コスト、工程、安全を管理する専門家です。

資格は1級と2級に分かれており、扱える工事の規模が異なります。2級は中小規模の工事で「主任技術者」として、1級は制限がなく、大規模工事で「監理技術者」として活躍できます。

企業の経営事項審査(公共工事の入札参加に必要な評価)においても、1級有資格者は5点、2級は2点と高く評価され、資格者の存在そのものが企業の受注能力と経営資産に直結します。

1級と2級の法的な役割の違いは、キャリアにおいて決定的な差となります。

項目 1級電気工事施工管理技士 2級電気工事施工管理技士
対応可能な工事規模 制限なし(大規模工事に対応可能) 中小規模工事が中心
可能な役職 主任技術者、監理技術者 主任技術者
特定建設業の専任技術者 可能(大規模案件の受注に必須) 不可
経営事項審査への加点 5点 2点

仕事内容と役割:現場の司令塔

業務の本質

電気工事施工管理技士の仕事は、自ら工具を持って作業することではありません。主な任務は、設計図通りに、予算内で、工期を守り、かつ安全に電気工事が完了するよう、プロジェクト全体を監督することです。

デスクワーク(図面作成、見積もり、公的書類作成)から、現場での調整業務(顧客、設計者、他業種、下請業者との折衝)まで、その業務は多岐にわたります。

4大管理(QCD-S)の詳細

施工管理の核となるのは、以下の「4大管理」です。

  • 工程管理:プロジェクトが設定されたタイムラインを遵守し、納期を守れるよう進捗を管理します。
  • 品質管理:すべての作業が設計仕様書や法的基準、顧客の要求を満たす品質であることを保証します。
  • 原価管理:材料費、人件費、その他の経費を含む予算を管理し、利益を確保します。
  • 安全管理:感電や墜落といった電気工事固有の危険性を考慮し、事故を未然に防ぐための安全プロトコルを導入・徹底します。

1級資格者の最重要任務:「監理技術者」
1級資格者が担う「監理技術者」は、元請業者が大規模な工事(下請契約の総額が一定額以上)を行う際に、現場に配置が義務付けられる最上位の技術者です。この役職に就けるのは1級有資格者のみであり、企業の事業戦略そのものを左右する重要なポジションです。

求められるスキルと関連法規

施工管理技士には、技術的な知識だけでなく、多様なスキルが求められます。

  • プロジェクト全体を俯瞰する管理能力
  • 発注者や他工事業者と円滑に調整するコミュニケーション能力
  • 予算と納期を守るための折衝力
  • 突発的なトラブルに対応する問題解決能力
  • 図面を読み解き、作成する技術的知識
  • 安全を最優先する強い責任感

また、業務は主に「建設業法」と「電気工事業法」という2つの法律に基づいて運営されます。これらの法規を遵守し、適切な許可や登録のもとで工事を進めることも重要な役割です。

年収・労働環境の実態

年収の傾向(参考)

電気工事施工管理技士の年収は、全国平均を上回る傾向にあります。一般的な報告では、平均年収は400万円から600万円の範囲が多いとされています。

特に1級資格を保有している場合、資格手当や役職手当がつくため、非保有者と比較して年収が100万円以上高くなる可能性も指摘されています。経験を積んだ40代、50代では、さらに高額になる傾向があります。

データに関する注意点
本記事に記載する年収は、あくまで参考値です。実際の給与は、企業の規模、勤務地、個人の経験年数、保有資格、担当するプロジェクトの規模によって大きく変動します。正確なデータは、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(https://…)や、最新の求人情報をご確認ください。

企業規模による差

年収は企業規模に大きく左右されます。業界は「サブコン」と呼ばれる大手専門工事業者が市場を支配しています。きんでん、関電工、九電工といった電力会社系の企業や、エクシオグループ、コムシスホールディングスといった通信建設系の企業が代表的です。

これらの大手企業の平均年収は、700万円から900万円を超える水準(2023年度の有価証券報告書参考値)となる場合もあり、高い給与水準を示しています。

表:大手電気設備サブコンの平均年収(参考)
企業名 平均年収(参考値) 主要関連会社
株式会社きんでん 800万~850万円程度 関西電力
株式会社関電工 800万~850万円程度 東京電力
エクシオグループ株式会社 750万~800万円程度 (通信系)
株式会社九電工 650万~700万円程度 九州電力

※上記は各社の有価証券報告書(2023年度等)に基づく参考値であり、幅を持たせた表記にしています。

やりがいと厳しさ

やりがい:
この仕事の最大のやりがいは、社会貢献性の高さです。病院、学校、交通、通信網といった社会インフラを「電気」という側面から支えます。プロジェクトを完成させ、建物に光が灯る瞬間には、具体的な達成感があります。手掛けた仕事が「地図と記憶」に残る、スケールの大きな仕事です。

厳しさ:
一方で、建設業界は長年「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージや、長時間労働、休日出勤といった課題を抱えてきました。特に工期が迫ると業務が過密になる傾向があります。ただし、この労働環境は業界全体で改善が進められています(詳細はセクション6で後述)。

電気工事施工管理に向いている人・いない人

向いている人の特徴

電気工事施工管理は、技術力と人間力の両方が求められる仕事です。以下のような特徴を持つ人は、この職種で活躍できる可能性が高いです。

  • 調整力と交渉力がある人:発注者、設計者、作業員など、多くの関係者の間に立ち、利害を調整する能力が必須です。
  • リーダーシップがある人:多くの職人や技術者をまとめ、現場の士気を高めながらプロジェクトを牽引する力が求められます。
  • 責任感が強い人:人命に関わる「安全」と、数億円規模の「予算」を預かるため、強い責任感とプレッシャー耐性が必要です。
  • マルチタスクが得意な人:工程、品質、原価、安全を同時に管理し、複数の問題を並行して処理する能力が求められます。
  • 空間認識能力と論理的思考力:複雑な図面を読み解き、電気系統の配線や機器配置を立体的にイメージできる能力が必要です。
  • 体力と精神力:デスクワークと現場巡回をこなし、工期内のプレッシャーに対応できるタフさが求められます。

向いていない可能性のある人

逆に、以下のような特徴がある場合、この仕事は厳しいと感じるかもしれません。

  • コミュニケーションが苦手な人:多くの人と関わる調整業務が仕事の中心であるため、人との折衝を避けたい人には向きません。
  • 計画性に欠ける人:行き当たりばったりの業務進行は、工期遅延や予算超過に直結します。
  • プレッシャーに弱い人:工期や安全に対する重い責任を負うため、精神的なプレッシャーに弱いと苦しくなる可能性があります。

キャリアパス3つのルート

1級電気工事施工管理技士の資格を取得すると、キャリアの選択肢が大きく広がります。代表的な3つのルートを紹介します。

  1. ルート1:大手サブコンで管理職を目指す

    最も安定したキャリアパスの一つです。大手サブコンに入社または転職し、1級資格を活かして監理技術者として大規模プロジェクト(例:麻布台ヒルズ、新国立競技場、データセンターなど)を担当します。その後、工事課長、部長といった管理職へ昇進し、高年収を目指すルートです。

  2. ルート2:ゼネコンの設備部へ転職する

    サブコン(専門工事業者)から、ゼネコン(総合工事業者)の設備部門へ転職する道もあります。発注者側の立場で、サブコンを管理・指導する役割を担います。より上流の立場でプロジェクト全体を動かしたい人に向いています。

  3. ルート3:独立・起業する

    十分な経験と1級資格があれば、自身の電気工事会社を立ち上げることも可能です。建設業許可を取得し、自ら経営者として事業を行う道です。大きな成功を収める可能性もありますが、経営リスクも伴う上級者向けの選択肢です。

将来性を分析:市場トレンドと業界展望

電気工事施工管理の将来性は、業界が直面する課題と技術革新の両面から見ても、非常に高いと言えます。

追い風となるトレンド3つ

現在、電気工事の需要は複数の要因で拡大しています。

  • 再生可能エネルギーへの移行:太陽光や風力発電設備の建設、FIT/FIP制度に後押しされたプロジェクトが継続的に発生しており、電気技術者への需要が持続しています。
  • インフラの老朽化対策:高度経済成長期に建設されたインフラ(ビル、工場、公共施設)が更新時期を迎えており、大規模な改修工事が長期的に見込まれます。
  • デジタル化と脱炭素化:データセンターの建設、5G通信網の整備、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やスマートビルの普及など、新たな技術に対応した高度な電気設備工事が急増しています。

国土交通省の統計(建設工事受注動態統計調査など)でも、建設投資全体は堅調に推移しており、市場規模は安定しています。

「2024年問題」と「建設DX」による変革

業界の将来性を語る上で、2つの大きな変革要因があります。

1. 2024年問題(時間外労働の上限規制)
2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。これにより、長時間労働に依存した従来の働き方が法的に不可能になり、人件費増加や工期長期化への対応が迫られています。この規制が、業界の働き方改革と生産性向上を強制的に進める要因となっています。

2. 建設DX(デジタルトランスフォーメーション)
労働力不足と2024年問題への唯一の解決策として、建設DXが急速に普及しています。BIM/CIM(3次元モデルによる設計・施工管理)、IoT(センサーによる安全・進捗管理)、AI(画像解析による報告書自動化)などの技術が現場に導入されています。これにより、業務効率化と長時間労働の是正が進んでいます。

業界団体も、旧来の「3K」イメージを払拭し、「新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)」の実現をビジョンとして掲げており、業界全体で労働環境の改善が本格化しています。

よくある質問(FAQ)

Q1

2024年度から受験資格が緩和されたと聞きました。どう変わりましたか?

A

はい、大幅に緩和されました。1級の第一次検定は、年度末時点で19歳以上であれば学歴や実務経験を問わず誰でも受験可能になりました。これにより、学生や若手技術者が早期に「技士補」資格を取得し、キャリアをスタートしやすくなりました。

Q2

「技士補」とは何ですか?

A

第一次検定に合格すると取得できる国家資格です。1級技士補は「監理技術者補佐」として現場に配置できます。技士補を専任で配置することで、本来専任が必要な1級(監理技術者)が2つの現場を兼任できるようになるため、企業にとって非常に価値の高い資格です。

Q3

電気工事士(第一種・第二種)との違いは何ですか?

A

電気工事士は、自ら工具を使って作業を行う「作業員」のための資格です。一方、電気工事施工管理技士は、それらの作業員や工事全体を管理・監督する「管理者・監督者」のための資格です。役割が根本的に異なります。

Q4

1級と2級のどちらを目指すべきですか?

A

キャリアアップと高年収を目指すのであれば、最終的には1級の取得を強く推奨します。大規模工事の「監理技術者」になれるのは1級だけであり、転職市場での評価や任される仕事の規模が大きく変わります。

Q5

実務未経験からでも目指せますか?

A

はい、可能です。2024年の制度改正により、未経験でも第一次検定(技士補)は受験可能です。まず技士補資格を取得し、それをアピールして建設会社に就職・転職し、実務経験を積みながら第二次検定(技士)を目指すのが現実的なキャリアパスです。

まとめ:キャリア設計の第一歩

電気工事施工管理技士、特に1級資格は、建設業界が直面する労働力不足、2024年問題、そして建設DXという大きな変革期において、その価値がかつてないほど高まっています。

再生可能エネルギーやインフラ更新といった安定した需要に支えられ、雇用は非常に安定しています。厳しい側面もありますが、それを乗り越える技術革新と業界全体の働き方改革が進んでおり、社会貢献性と高い報酬を両立できる有望なキャリアです。

キャリアアップへ向けた今すぐ始めるべき第一歩

もしあなたがこの専門職に魅力を感じているなら、以下のステップを踏み出すことをお勧めします。

  1. 第一次検定(技士補)の取得を目指す:まずは19歳以上(2級は17歳以上)であれば受験可能な第一次検定に挑戦し、「技士補」の国家資格を取得します。
  2. 実務経験を積む:技士補資格を活かして建設会社に就職・転職し、第二次検定の受験資格である実務経験を積みます。
  3. キャリア相談を活用する:建設業界に特化した転職エージェントに相談し、現在の自分の市場価値や、1級取得後の具体的なキャリアパスについてアドバイスを受けることも有効です。

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